信濃路

 

 碓氷峠を超え、軽井沢宿から本山宿までの15宿場が信濃路です。

 信濃路は高原の道です。碓氷峠の西、浅間山の山裾にある軽井沢・沓掛・追分(浅間三宿)は海抜1000m前後の高地にあり、信濃路のその他の宿場も標高700m以上の高原や盆地にあります。和田宿と下諏訪宿の間には和田峠(標高1531m)がありますが、信濃路は総じて比較的穏やかな地形です。 

 軽井沢宿からの中山道は徐々に標高を下げながら西南西に方角を転じます。武州路・上州路では見られなかった宿場の中の道路のアップダウンも多くなります。街道沿いに古民家の点在する宿場も増えてきます。間の宿ではありますが、借宿(沓掛宿と追分宿の間)と茂田井宿(望月宿と芦田宿の間)に白壁の土蔵や古民家の連なる街道風景が残っていました。一方、軽井沢宿、沓掛宿、岩村田宿、塩尻宿、洗馬宿など街道の面影を払拭してしまった宿場もありました。

 何時だったかかなり前のことですが、知人から茂田井宿の町並みを描いた一枚の年賀状が届きました。茂田井という地名は知っていましたが、町並みの画像を見たのは初めてでした。その年の秋、紅葉シーズンを待って茂田井宿を訪ねました。信州佐久平の西にある茂田井宿は小さな宿場ですが、昔ながらに道端にはせせらぎの聞こえる水路があり、白壁の土蔵や土塀が連なる街道情緒豊かな町並みがありました。道端に腰を下ろし夢中になって何枚もスケッチをしました。時折行過ぎるお年寄りや子供が皆声をかけ挨拶をしてゆきます。そこにはこれまで忘れていたどこか懐かしい風景や暮らしがあるように思われました。この時茂田井宿を描いたことが、私がその後中山道巡りを始めるきっかけになったように思います。